月夜見
 残夏のころ」その後 編

   “かぼちゃとドラキュラは怒ってる”


クリスマスや聖バレンタインデーに続いて
最近の日本に随分と定着したのがハロウィンで。
あれって、
正確にはキリスト教のイベントじゃないんだってな?
五月祭ってのが
やっぱりイギリスの豊饒祭で
大地の女神様にお祈りするように、
こっちはケルトっていう古い民族が始めたお祭りで、
冬の手前の今頃に、
死の国の扉が開いて亡者が地上へあふれるんで、
それへ取り憑かれたり連れて行かれたりしないように、
夜中ずっと起きてよう、
その間、
魔物が人だと見破らないよう魔物の扮装をしようって、
そういう意味合いのイベントだったのが、
少しずつヨーロッパに広まって、
やがては世界中へ定着したのらしい。

 『日本人が
  こんなにコスプレ好きだってのは意外ですってよ。』

そういうパーティーと構えているならいざ知らず、
パレードしたり、コスプレグッズが売れまくったりというのは、
却って欧米の人には意外だそうで。
小さい子供たちが、魔よけの意味から、
それか、日本の地蔵盆のノリで
夜中にお菓子くださいって
家々を回るイベントへと参加するんでって
仮装するのは良しとして。
学生でもない いい大人までコスプレするのは、
今時のノリでしょうかと本場の方々から ともすれば驚かれると、
レイリーのおっちゃんトコのおねいさんが、
面白いねぇって くすくす笑いながらゆってたしなぁ。

 “まぁな。
  俺らが着せられたんだって、
  客寄せのためってヤツだったしサ。”

今年の当日は木曜、平日だったけど。
金曜を挟んで3連休の直前だったってのもあって、
カボチャはいかが、
ジンジャークッキーのレシピもありますよっていう、
我らが“レッドクリフ”じゃあ お初の
“ハロウィン・フェア”なるものを構えたのが先週。
勿論、当日の前の週からも、カボチャをたくさん仕入れてのこと、
おいしい献立を紹介しつつ、
お菓子売り場にもそっち系のキャンディなんかも並べたところ。
ご近所の輸入家具センターに寄ったらしいお客が流れて来ての
結構 買ってってくださったし。
先週の週末と今週の当日、
ルフィさんと店長とバイトの女の子の何人か、
それらしいコスプレして店頭に立ったんで。
店頭販売のカボチャの蒸しパンとチョコがけドーナツが
飛ぶように売れまくったもんで。

 “成功しちゃっちゃっなぁ。”

当てが外れれば、
やっぱ野菜の直販店じゃあ無理かってことで
今年限りとポシャるものが、
だぁいせいこぉうvvという成果を上げちゃったものだから、

 『…これは来年もやるな。』
 『だな。』

正社員の皆様がうんうんと大きく頷き。
やる前は“え〜〜〜? また俺ぇ?”なんて渋ってたくせに、
尖った先っぽが中折れになった、
大きなツバつきの三角帽子に黒マント、
タキシード風のプリントTシャツに黒ズボンで仮装した、
童顔の即席ドラキュラさんが、
カボチャを売りまくった功績から
来年も同じ役どころを
優先してやっていいぞというご指名をされたことで
無事に幕を下ろしたのだけれど。

 「だからさぁ、なんでゾロはいなかったんだよぉ。」

さすがに当日が過ぎたのに置いとくのは興ざめだからと。
ハロウィン関連のキャンディやらクッキーやら、
おやつに食え食えと職員食堂へ箱ごと置いてあったのを、
遠慮なくバリボリと頂きながら、
そちらさんは自販機で買ったらしい缶コーヒーを手に、
同じテーブルで向かい合ってる剣道青年へ、
昨日のヒーローさんが ちょっとばかり膨れつつぶうたれておいで。
別にさ、お客さんに喜んでもらえたから、
妙なもんへ仮装したのは どうこう言わねぇけどさ。

 「来たら絶対付き合わせてやろって思ってたのに。」

それが唯一不満であるらしく、
あんまり過ぎたことにはこだわらない彼が、
珍しいほどいつまでもぶちぶちと文句を並べているのであり。
そして、それをぶつけられてるのっぽのお兄さんはといえば、

 「勘弁ッスよ、俺そういうの苦手なんスから。」

困ったなぁというお顔での、
でもでもその割には
嬉しそうな気色の方が強そうな苦笑を続けておいで。

 「何でだよ、
  フランケンシュタインとかだったら
  愛想振る必要なかったのに。」

ぷんぷくぷーとやわやわな頬を膨らませ、
いやに具体的に言ってのけるルフィさんなのは。
ヘルメットの横っ腹へ
発泡スチロールで作った大きなボルトを貼り付けたらしい、
これをかぶればあなたも改造人間…アイテムを、
搬送班のヤソップおじさんに作ってもらって
こちらのお兄さんが来るのを今か今かと待ってたらしく。
そして、敵前逃亡したなと非難されてるゾロの方はといえば、

 “あのカッコでも愛想を振れるんだから、
  この人、ホンットに強心臓だよなぁ。”

カボチャと言ったら
煮物かテンプラしか思いつかないわぁという奥様がたへ、
キッシュやパイや、蒸しパンに、
そんな難しくないッスよとレシピをばさばさ振りかざして薦めたり。
メリークリスマスっ、え? あ、間違いた〜vvと、
それは朗らかにハロウィン大使を勤め上げていた勇姿、
実は通りかかって眺めてただなんて、

 “言えるワケないよなぁ、うんうんvv”

実はあのね? こちらへのお客の流れを作ったって貢献をしてくれた
輸入家具センターの方の搬入スタッフのお手伝い、
急な人手不足の穴を埋めるのへこそりと駆り出されておいでだったこと、
知っているのは向こうのイートインで頑張ってたサンジさんと、
こっちの店長、副店長の3にんだけで。

 “ま、クリスマス辺りにリベンジさせられるかもだから。”

そん時はこっちの人手もしっかり集めとくしと、
先日の二の舞いだけはさせないからとの腹積もりもやはり内緒のまま、

 「おー何だどした、勇ましいなルフィ。」

差し入れだぞと、
自慢のクラブサンドを詰めたクラフト紙の袋を手に、
白々しくも乱入の、金髪碧眼のお兄さんの登場で。

 「あ。なあなあサンジも聞いてくれよ。」

どれほどご不満だったものか、
ますます舌に油が乗りそうな坊ちゃんだったが。
リピートされるのまた聞かされるゾロにしても、
厨房においでの賄いのおばさんにしても、
かわいい囀りなもんだとばかり、
それもまた、ほわんと温かな活気にしかならないらしくって。
そんな余裕の大人さんたちに囲まれておいでの、
無邪気な腕白さんだけが、
ぶうぶうご不満の午後だったのでありました。


  ホント、クリスマスが今から楽しみですよねvv





   〜Fine〜  2013.11.03.


  *さっそくといいますか、
   あちこちで もう
   クリスマスのディスプレイや
   ライティングの点灯式をされてましたよね。
   早い早い、毎年前倒しです。
   その前に七五三だぞ、お忘れなく。


ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv

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